加奈さんがいなくなり、しばらくは気の抜けた様になっていた太郎さんは気を取り直して久々に最強大家の会の例会に参加し、今回の顛末を発表しました。
発表の準備をして太郎さんは今までの原因は自分の考えの甘さにあり、それを解決できたのは自分ではなく、加奈さんを始めとした多くの仲間がやってくれたことに気が付きました。
でも、それを正直に発表するとまずいので、すべてを太郎さんが考え実行したことにストーリーを捏造しました。
その結果、その内容は空室増や家賃下落に悩む多くの大家さんに驚きと称賛を呼んだのでした。
発表が終わり、大きな拍手の後、太郎さんは一躍ヒーローになりました。
特に初参加した新入会員の立山千穂子さんは、こんな鮮やかに危機を脱出した太郎さんを尊敬の眼差しで眺めていました。
「太郎さんのところにお嫁に行きたい」本当の太郎さんの実力を知らない立山さんは無謀にもそんな事を思っていました。
賢明な読者なお判りでしょうが、太郎さんは自分の思慮の甘さで赤字危機に面しました。そしてそれを他の人の献身的なサポートで脱出出来ただけで、決して本人の努力の結果ではありません。それを理解しないでお嫁に行ったら大変な事になります。
「太郎さん素敵」 マドンナ大家さんがうっとりとして言いました。
「あの時、私のアドバイスをちゃんと聞いてくれたのね。私も良く新米大家さんから相談を受けるけど、アドバイスをしてもちっとも聞いてくれない人が多いのでいやになっていたのよ」
そして、マドンナ大家さんは太郎さんにこう言いました。
「太郎さん、それじゃ今年はハワイに行けるわね」
「マドンナさんからのお誘いじゃ断る訳にいきませんね。勿論ハワイぐらい行けます」
太郎さんは多少の見栄も手伝って気の利いた答えをしました。
「まあ、嬉しいわ。それじゃ一緒に行きましょうね。また盆蔵さんのコンドでパーティやるのよ」
「あれ、今年は関原さんとは一緒じゃないんですか?」
「彼はいま空室対策に追われてそれどころじゃないのよ」
というわけで、夏休みにはあこがれのマドンナ大家さんも一緒に再度ハワイに行くことになりました。
「あはは、今や僕はカリスマ大家だ」太郎さんはそう言って高笑いしました。
その後、久々に二次会に参加して酔いつぶれ終点まで寝過ごしてしまいました。
いつもは深夜居酒屋で始発を待つのですが、今回は家賃収入が増えたので奮発してタクシーで帰りました。
こうやって太郎さんは段々と昔の浪費生活に逆戻りしつつあります。
でも、本当に家賃収入は増えたのでしょうか?
続く