平成27年1月14日(木)日経新聞朝刊に、
『不要な介護 横行懸念 高齢者住宅、悪質事例も』
という厚労省調査を報道しましたが、ご覧になった方も多いのではないでしょうか。 

厚労省は昨年7月から8月にかけて、サ高住と住宅型有料老人ホームの指導・監督権限を持つ都道府県と政令市、中核市の110自治体にアンケート調査を実施し、全ての自治体から回答を得たとして、厚労省への独自取材の結果を掲載しました。
1月15日現在では、厚労省のホームページにはその結果は掲載されていません。
日経新聞記事によりますと、「調査結果では、入居者が施設への入居契約とは別の契約を結ぶことで、家事援助や入浴回数を増やしているといった過剰なサービス提供が疑われるケースについて、50%以上の自治体が『課題がある』と答えた。」とあります。

しかし、サ高住の場合は、利用権方式(入居費と生活支援サービス費や介護サービス費が一体化した契約)ではなく、賃貸借方式(入居費、共益費、安否確認・生活相談サービス費と生活支援サービス費・介護サービス費とは別途契約)ですので、食事等の生活支援サービス契約や通所介護や訪問介護等の介護保険サービス契約は別途契約になります。
当然ながら、家事援助や入浴援助は、介護保険を利用しない場合は、全額自己負担となります。
これらが、過剰サービスかどうかは、本人・家族が判断すべき事項であり、介護保険サービスであれば、本人・家族の意見を尊重してケアプランを作成するケアマネージャーの判断によります。
本人ができる日常生活を本来必要でないサービスを行うのでは問題ありますが、「ご自宅であれば問題ないが、高齢者住宅で区分支給限度基準額いっぱいまで使用するのはけしからん」とは言えないのではないでしょうか。

第5章で要介護3の方のケアプラン例をご提示しましたが、これ以上の介護サービスを行う場合は、区分支給限度基準額を超えた分は全額自己負担となります。
この超えたサービス分が過剰サービスと言っているのでしょうか。

これらの問題の解決策が、2006年創設の「小規模多機能型居宅介護・看護」や2012年創設の「定期巡回・随時対応型サービス」でした。
これらの共通は、在宅サービス報酬額の積み重ね方式ではない、月額定額方式の包括報酬です。
通所介護、訪問介護・訪問看護の代わりに「小規模多機能型居宅介護」を、訪問介護、夜間対応型介護の代わりに「定期巡回・随時対応型サービス」を提供できるようにすれば、問題は解決します。
しかしながら、厚労省の思惑とは反対に財源に苦しむ各市町村は、これらの地域密着型サービスの導入に消極的です。
サ高住の建築推進に熱心な国土交通省は、サ高住入居者には「定期巡回・随時対応型サービス」を付加した生活支援施設を想定し、その建築費用の助成も推進しています。

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このような背景にも拘わらず、厚労省は、今年度の介護報酬改定で、「集合住宅へのサービス提供の場合の減算」を決定しました。第6章ご参照下さい。

その減算理由は、移動時間が軽減され効率よい訪問ができるというものです。

訪問介護事業者は、「定期巡回・随時対応型サービス」か、従来通りの「訪問介護・夜間対応型訪問介護」を選択するかになる訳ですが、その前に「定期巡回・随時対応型サービス」は各自治体の公募制による規制を受けていますので、思うようには増やすことはできません。
そうしますと、毎回の1割カットの訪問介護・夜間対応型訪問介護にならざると得ないのですが、事業者収入が1割ダウンとは限りません。
今まで10回訪問であったのであれば、11回訪問できるようにケアプランを作成すれば、トータル収入は変わりませんが、その分、人件費用はかさみます。国の財源不足から、介護報酬の削減を図るのであれば、在宅サービスの根本原則である「区分支給限度基準額」の削減しかありません。
しかしながら、重度の方の区分支給限度基準額を削減することは、家族負担が更に増える可能性が大であり、軽減は不可能と考えられます。そうしますと、軽度・中度の方の区分支給限度基準額を減額するしかありません。
既に要支援は、介護保険外にする方向ですから、要支援・要介護1までは2割減額、要介護2.3は1割減額、要介護4.5は現状ということが、こらから3年の間に、真剣に考えられるのではと想定されます。
2008年5月に財務省が試案した3案が今でも気になります。
ドイツ方式の要介護3以上が介護保険を使えるようにしたいと今でも財務省は考えていると思うのは私の思い過ごしでしょうか。

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サ高住の一番の問題は、必要ではない入居者に必要以上の生活支援・介護サービスを提供していることであり、その逆の生活支援・介護サービスが必要な入居者に対してそれらのサービス態勢が整っていないことにあるのではないでしょうか。
即ち、サ高住運営の事業スキームに問題があると言わなければなりません。
サ高住の介護スタッフでさえ、
「サ高住は施設ではないので、自由に生活して頂くべきで、どこまでお世話すればいいかのわからない」
「通所介護サービスは、週2.3回であるべきであり、それ以外は訪問介護でサービスすべきである」
と考えています。

これらの考え方には、『サ高住は、賃貸住宅であるので生活は自由であり、普通の賃貸住宅とは安否確認と生活相談ができるヘルパー2級以上の資格を持つスタッフがいて安心である。』『介護が必要になれば、外部のデイサービスに通ったりご自分のお部屋にヘルパーさんに来てもらい、生活介助や身体介助をしてもらうので大丈夫だ。』ということです。

確かに、国土交通省が考えるサ高住は、このようなお元気な高齢者向けの賃貸住宅です。
しかしながら、このようなサ高住は3割もありません。
約7割以上のサ高住は、18m2から25m2までのお部屋の広さです。(第4章:サ高住の住戸面積を参照下さい。)
そこにお住まいの高齢者は、当然、一人では食事の用意や、入浴、トイレが出来ませんので、介助が必要な要介護認定の方々です。
宮城県の場合、平成27年1月末現在、101箇所のサ高住登録件数がありますが、そのうち、11件のみが25m2以上のお部屋です。その中でも、3か所のみが、お元気な高齢者が入居可能な食事提供なしのサ高住です。

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第2章でもお話しましたが、2006年から有料老人ホームの定義が変更になりました。
高齢者を1人以上入居させ、介護か食事か家事か健康管理かどれか一つでもサービスをしている居住系施設を「有料老人ホーム」としました。
それらのサービスがなければ、単なる高齢者賃貸住宅です。
その高齢者住宅の中で、部屋の広さ(原則25m2以上)やバリアフリー構造を備えた建物で、かつ、昼間(午前9時から午後5時まで)は有人(ヘルパー2級以上の資格者)管理、夜間は緊急通報装置が備わったものを、登録することで、サービス付き高齢者向け住宅としました。
これが、お元気な高齢者が入居する「自立型」のサ高住です。

しかしながら、従来あった「適合高齢者専用賃貸住宅」の流れを引き継いだのが部屋の広さが「18m2」以上あり、かつ自立型25m2との広さの差を部屋数分だけ確保しなければならない共用部分(共用台所・共用風呂等)を備えた「介護型」サ高住となった訳です。
ですから、サ高住には、大きく2つの種類「自立型」と「介護型」があることになります。

「自立型」と「介護型」のサ高住の違いを次の表にまとめてみました。

「自立型」は、入居者のコミュニケーションの場が必要ですし、毎食摂らないにも関わらず、レストランの設置が求められます。
運営事業者から見れば、お家賃に反映できない費用負担となり、事業規模と利便性・立地条件次第で運営可能かどうかが決定します。

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都心と地方では、状況が違うと思いますが、持ち家率が高い地方では、わざわざお元気なうちに、狭い部屋に引っ越す高齢者は少なく、介護が必要になれば、自宅での在宅サービスか施設サービスを選択することになります。

しかしながら、都心では持ち家率が地方に比べると低く、賃貸住宅に住まいの高齢者は、同じ家賃を払うのであれば、安心が備わっている「サービス付き高齢者向け住宅」や「有料老人ホーム」に住替えを検討する傾向にあります。
その場合でも、介護が必要になった時でも、最後まで面倒見てくれる高齢者住宅を希望します。その為、隣接する棟や同じ棟でも介護フロアに住替えができる混合型の高齢者住宅を探しています。

サ高住運営の成功パターンと失敗パターンは下記の通りです。

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大草俊夫 さんのプロフィール

サ高住、高齢者向け住宅、介護・福祉のコンサルタントです。
大草俊夫

大草俊夫
(おおくさとしお)

オーエイチ・サポート株式会社
長崎県生まれ

一般社団法人 全国介護福祉事業普及振興機構 理事長

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