さて、今の時代の経営者にとって必要な“企画力”というのは、どういうことなのか。どの業界にも、既存のやり方や長年のスタイルというものが存在します。それは、明確な理由云々ではなく、こんな時にはこうするものだ、というある種の方程式のようなものです。けれども、従来のやり方にあまりにもこだわっていては、新しい想像力というものは生まれません。もちろん、なにもかも新しければよいというわけでもありません。温故知新という言葉があるように、今までのことを研究し、調べつくしてこそ、そこに新しい見解や知識が生まれます。物事に対して、いつも疑問を持つことを忘れずに、どうしてそういう方法をとるのか、もっと効率的な方法はないのか、と常に考えることが“企画力”そのものに繋がっていきます。不動産業界の話を例にあげると、今現在、賃貸住宅の空室数は約350~400万戸と言われています。入居者がその数ある空室の中から一つの部屋を選ぶには、確実に理由が必要です。確かに今までは、駅が近いことやとにかく安いことなどがその理由の大部分を占めていました。けれども、それだけの理由では、今では同じ条件の部屋などいくらでもあるわけですから、他社との差別化やブランディング化を図らなければ選んでもらえないのは明らかです。「どちらでもいい」ではなく「これを選んでよかった」と顧客に思ってもらえなければ、確実な採算は見込めません。例えば、全く同じ立地条件で家賃も広さも同じ物件があると考えてみてください。その場合、完成する部屋はすべて同じものか。もちろん違います。そこで企画力がものを言うのです。間取り次第で部屋は広くもなるし、狭くなってしまうこともあります。そのスペース自体が変わるわけではないのですが、人の動きには動線というものがあり、生活の中でとる行動や使用するスペースというのは限られています。そこで、従来の間取りにとらわれずに内装設備等に工夫をすれば、動線の無駄を省いて有効な生活スペースを広くすることが可能になります。それだけではなく、その設備によって部屋を広く見せることも可能です。もちろん、その部屋に住む人が変われば必要な条件は変わります。時代の変化とともに人々のライフスタイルも大きく変わりました。例えば、社会でも男女平等が進み、それは女性の自立化へ繋がりました。以前より単身の女性が実家を出て一人暮らしをすることも増えました。それならば、女性向けの部屋は以前よりもずっと必要とされています。そのように、時代や人々に必要とされているものは常に変わっています。そして、部屋の間取りがそこに住む人たちのコミュニケーションをつくり上げることさえできるのです。それらすべてを考えれば、やはり私たちが提供しているのはただのスペースではなく、そこに住む人たちのライフスタイルそのものの提案だと言えます。こうして、部屋の面積だけでなく、入居者に求められている本質を多角的にとらえることで、同条件の部屋でもまったく異なる生活環境ができあがります。それが他との差別化であり、入居者にとってはその部屋を選ぶ明確な理由へと繋がるのです。つまり、企画力の面でも多角的な物事の捉え方が必要になってきます。それを養っていくためには、時には自分が経営している会社とは異なるジャンルのことでも勉強しておくことです。例えば、外食産業の情報を把握しているだけでも、世間がファストフードからスローフードに注目しているという流れも分かります。それはつまり、食事をただの空腹を満たすためのものとして捉える価値観が変化したということです。この流れは、生活に求める価値観が変わったという面では、建築業界でも同じこと。こうして他のジャンルの情報をきちんと自分の中に知識として蓄えておくことが重要です。そしてそれらを適切な時に適切な方法で自分の経営に利用していきましょう。