前章で、平成27年度介護報酬改定のポイントをお話しましたが、2025年に向けての社会保障改革の中の介護改革の方向性が見えてきました。国は、2025年に向けての一里塚として、財政健全化の目標である基礎的財政収支(プライマリーバランス※)の黒字化を目指しています。その一番のテーマは、増え続ける社会保障費の削減であることは間違いありません。第7章でご紹介した平成20年5月財務省発表の「介護保険給付抑制3試算」では、・介護保険を使えるのは「要介護3以上」・「軽度の生活支援給付をなくす」(これは、本年度から始まります。)・「軽度の要介護者の自己負担を2割に」(これは、今年度から年金収入280万円以上が対象となりました。)の3例が指摘されました。この時の発表と同じ衝撃を、平成27年2月22日付けの日経新聞が報じています。タイトルは『「消費税10%+α」封印いつまで』というもので、“まずは社会保障を中心に歳出を絞り込む。それでも(基礎的財政収支の)黒字達成が難しいとわかった段階で10%+αの消費税を検討する。その時期は20年度に近づいてから。”という政府のやり方をけん制しておく狙いが、民間提言にある」として、公益財団法人 総合研究開発機構(NIRA:会長 牛尾次朗氏)の提言を紹介しています。その内容は、(1)後発医薬品の割合を8~10割に (2)要介護2以上の自己負担割合を1割から2割へ (3)年金受給者向けの優遇税制の圧縮 などで最大5.5兆円の社会福祉保障費を減らすとしており、こうした歳出削減策を実施してもなお残る基礎的収支の赤字分を、2%前後の追加的な消費増税で埋めるというものです。尚、経済同友会では、「消費税を18年度から毎年1%ずつ上げ、17%へ」との提言も同時に紹介されています。NIRAオピニオンペーパーNO14/2015.2によりますと、「介護給付の効率化・自己負担引き上げ等 1.1兆円」とし、試算方法で、その内訳を紹介しています。それによりますと、「介護保険費用のうち要介護2~5の自己負担(1割)は、0.6兆円に相当。自己負担を2倍(自己負担上限を撤廃しつつ負担を2割へ引き上げ)することにより0.6兆円のうち公費割合52%(2012年度実績)分の0.3兆円が削減できる試算。さらに、要支援1・2及び要介護1の介護サービスを全額自己負担とした場合の削減額は1.5兆円。これに公費割合52%を掛けた0.8兆円が削減可。また、これらは給付効率化でも同金額で代替可能。」と提言しています。今年度から、新総合事業の名目の下「要支援はずし」が始まりましたが、次には、介護認定において大よそ差異がない要支援2と要介護1の区分をなくすことが始まり、最終的には、NIRA提言のように介護保険を利用できる高齢者は、要介護2以上になるのではないでしょうか。(image) これは、以前から疑問に思っていた「37%規制」の計算手法に通じるものです。(37%規制とは、5つの居住系介護施設入居者数が要介護2以上の構者に対し、2005年度の37%を2014年度も維持するという厚労省参酌標準でした。詳細は、第3章をご参照下さい。)このように見てきますと、団塊の世代が全員75歳になる2025年には、介護保険を利用できるのは、中度・重度の高齢者のみ(要介護2以上)となり、それ以外は、生活支援サービスという全額自己負担の新総合事業に移行するのではないでしょうか。介護保険施設(特養・老健・介護療養型)は、既に要介護4以上の重度入所者を7割以上にするという厚労省の参酌基準がありますが、この割合が更に8割以上に上げられ、特養と同じように、要介護3以上が入所条件になるのではないでしょうか。これからは、ますます介護保険施設と居住系施設の有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅との住み分けが進んでいくと思われます。前回、今回と同一建物における介護報酬減算の見直しがありましたが、介護認定区分が要介護2以上に変更となると、区分支給限度基準額の見直しは必要ありません。第7章では、介護認定区分に変更ない場合を想定して、区分支給限度基準額の見直しに言及しました。現在は、特定施設入居者生活介護を利用する介護付有料老人ホームは、包括報酬という理由で、公募制の総量規制中ですが、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅での居宅サービス給付費が特定施設と同等以上使用されている現状を踏まえれば、むしろ、包括報酬制を適用し、その介護報酬給費費を3年毎に見直し、抑制していくほうが財政健全化に向かうのではないでしょうか。既に特定施設の介護給付費は3年毎の見直しでその都度抑制されています。その中で、介護サービスの質を向上させ、入居者ニーズにあうサービスを提供することにより、上乗せサービス、横出しサービスの充実を図り、競争力を介護辞御者に求めるべきです。(image) 介護保険制度が2000年度から始まりましたが、当初の10年間は「量の確保」、今の5年間は「質の確保」でした。これからの10年間は、「質の競争=淘汰の時代」ではないでしょうか。わがままな団塊世代のニーズ・ウォンツに応えなければならない介護事業者に変革が求められます。※基礎的財政収支(プライマリーバランス)税収などで政策経費をどのくらい賄えるかを示す基礎的財政収支。2020年度までに黒字化するとの政府目標に向けて税収増につながる成長戦略や歳出削減の取り組みが必要である。しかしながら、「日本の財政事情は深刻さを増しており、20年度の基礎的収支の黒字化はほとんど不可能になりつつある。財政を立て直すためには、更なる増税や歳出の大幅削減が不可欠であり、その歳出削減のためには社会保障改革が欠かせない。高齢化の進展で、年金や医療、介護などへの支出が今後の最大の歳出増加要因となるからだ。(平成27年2月24日日経新聞【大機小機】から抜粋)」これからの介護事業で避けて通れない問題に介護給付費の削減とともに、介護人材の確保があります。平成27年2月23日開催の社会保障審議会福祉部会福祉人材確保専門委員会の提言「2025年に向けた介護人材の確保」が発表になりました。介護保険制度が始まった2000(平成12)年当時、約55万人であった介護人材は、2013(平成25)年には約171万人となり、2025(平成37)年には需要は249万人必要となるにも拘わらず、約33万人が不足するとの見通しが示されました。(image) これらの介護事業環境をとりまく状況の背景には、少子高齢化問題があるのはご存知の通りです。65歳以上の高齢者数は、2015年には3,395万人(高齢化率26.8%)、2025年には3,657万人(高齢化率30.3%)となり、2042年にはピークの3,878万人(39.4%)を迎える予測が出されています。高齢化率が問題化されていますが、この高齢化率は一夜で解決する方法があります。それは、高齢者の定義を変更することです。ご存知のように、高齢者の定義は65歳以上とされていますが、いつからこのように定義されるようになったのでしょうか。国連経済社会理事会が1956年にまとめた報告書に由来されるとされているようですが、世界保健機構(WHO)は「国連に標準的な数値基準があるわけではない」と言っています。だとしたら、いっそのこと「高齢者は70歳以上」という日本独自の基準を作ってしまってもいいのではないでしょうか。政府の「選択する未来委員会」でも今の15~64歳という生産年齢人口の定義を「70歳まで」に変えるように提言しました。年金受給時期も65歳から67~68歳へ移行を検討していますが、70歳からの受給開始になるかもしれません。企業の65歳定年も定着してきましたが、更に5年延期になるかもしれません。企業も人手不足ですから、経験豊かなシニア層を上手に活かす職場が実現しますと、生産年齢人口の厚みを増すことになります。高齢者の定義を70歳以上とすると、当然、医療費・介護費の抑制にもつながります。これらの介護事業を取り巻く環境は、大きな変革の波に飲み込まれることになります。2018(平成30)年度は、6年に1回の介護・医療のW報酬改正の年で、更に、在宅医療・在宅介護が徹底される方向性が出てきますし、2020(平成32)年度には2025(平成37)年度に向けた最後の介護保険制度の改革があるはずです。これからの5年間で2025年度以降の事業スキームが決まってきます。外部環境は、どの事業者にも影響するわけですから、避けては通れません。とすれば、これからの環境変化をいち早く読み込み、次の一手を「いつ・どのように」打つかにかかってきます。2000年の介護保険制度創設で、異業種からの参入で介護事業は拡大してきました。これからは、M&Aをはじめ、淘汰の時代でもあります。勝ち残る時代でもあります。知恵と工夫と実践で、地域に必要とされる事業所となるよう努力されますようご期待申し上げ、最終章の締めとされて戴きます。
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