このブログを、宅地建物取引士いわゆる「宅建士」を志し、
その資格試験に挑戦する全ての挑戦者に捧げたいと思う。
 
  
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不動産屋ならば持っていて当たり前。

持っていないと「なーんだ」と言われるだけ。

それが「宅建士」というモノ。

 

 

2017年 10月 15日 午後5時

 

長きに渡る戦いを終え、とぼとぼと地元の駅に着き、いつもの帰り道。

戦いの後には変ると思っていた「いつもの景色」は、全く変わらないままの「いつもの景色」だった。

 

湧きあがる思いも無く帰宅すると自室に籠り、そのまま夕飯までは死んだように眠った。

台所で夕飯を作る物音に目を覚ましたのは19時を過ぎた頃だった。

 

朦朧としながらリビングに入ると、いつもと同じ家族の笑顔があった。

それから朗らかに家族と食事をし、笑いあう。

私の後に帰宅した長男に昇級試験の首尾を聞くと、確かに手ごたえが有ったという。

 

お父さんは?

 

 

と反対に聞かれ

 

 

うん。お父さんも多分イケてるわ!

 

 

がははと笑い合った。

 

 

お父さん、いつ発表なの?

 

 

重ねられ、我に返る。

 

 

そうだな、発表はひと月以上先だけど、たぶん回答速報が出ているよ。

 

うえぇぇぇ~ホント?見てみようよ!

 

 

スマホで検索すると、すでに多くの「学び系の会社」が独自の解答速報を打っていた。

受験生は選んだ答えを試験問題にメモ書きし、持ち帰る。
当然に俺もそうしていた。


余談ながら、実際に学び系の会社で教鞭を執っている方にお聞きしたのだが、彼ら講師も必ず毎年試験に申し込み、実際に当日会場入りし、試験を受ける。

そうして問題用紙に答えを書き込み、持ち帰り、同僚同士で正答を合わせ、当日のうちに発表をするのだ。
ただし、解答用紙は白紙で出すので大体試験監督にギョッとされるのだそうだが。


 

夕食後、俺は書き込んできた問題用紙をリビングへと持ち込んだ。

 

 

 

んじゃ~答え合わせ、してみっか?

 

 

 

リビングが色めき立つ。

 

因みに直近5年の過去の合格点(50問合計)は

 

24年度 33点

25年度 33点

26年度 32点

27年度 31点

28年度 35点

 

という結果だったようだ。

 

やはり俺が敗れた「平成27年宅建士の乱」の年は合格点が低い。

 

まずはこの事を皆に伝えたあと、俺が何を解答にしたのかを読み上げ、家族みんなに速報の正答確認をしてもらった。

解答速報に選んだ会社は池袋にある予備校のTだった。

ここの出している参考書が俺には合っていた。

なので何となく愛着もあり、速報もTが発表をした物を選んだ。
 

試験では作戦的に建築基準法から入ったが、答え合わせはいつも1問目からだ。

 

 

 

読み上げるぞ~!1問目、4!

 

 

 

あっ!まる!

 

 

 

2問目、2!

 

 

 

おおっ!マル!

 

 

 

3問目・・・

 

次々と続けていく。

 

権利関係14問を終え、正答は12問

得意としている民法はもちろん抑えたが、連帯債務もしっかりと押さえられた事が得点に繋がった。

 

どんどんと続ける。

 

次は・・・

15問目、4!

 

 

 

また正解!次!

 

 

16は・・・1

 

 

 

おお!凄い!また正解!

 

 

 

そうか・・・次っ!

 

 

 

 

こうして25問目までを終えた結果、正解は19問だった。

しかし実は、これは既定路線であり、いつも通り。

ここから苦手な宅建業法に入り、失速するのが通例だった。

 

過去の合格点を見るに30点台半ばを取れないと合格は有り得ない。

それを考えても20点の割り振りがある宅建業法はやはり、宅建試験における「本丸」なのだ。

 

 

俺は今一度気を入れ直し、回答を読み上げた。

 

 

えーと、いよいよ苦手な所な。

25問目は3!

 

 

 

うん!

 

 

 

26問目は1!

 

 

 

 

 

 

おお、当たってる!

 

 

 

 

 

 

27問目は・・・1で良いかな???

 

 

 

 

えっ!行けるんじゃね?まるぅ!

 

次男の言葉に手に汗を握る。

 

 

 

 

 

30問目は・・・1!

 

 

 

 

 

 

 

イケルイケル!正解!

 

 

 

 

そこからとんとん拍子に読み上げる。

程なくして、苦手だった業法の結果が出た。

 

 

 

何度繰り返し勉強しても20問中11点が限界だった宅建業法。

それを6500問連続ノックで鍛え上げ挑んだ今回のリベンジマッチ。

 

それは俺の長かった戦いの、総決算と言っても良かった。

 

宅建業法の成績。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20問中、18問正解。

 

ぶわっと、身体の内で何かが突き上げた。

この時、初めて手応えを得たのだ。

最も恐れていた相手を、真っ向から両断した手応え。

 

 

いける・・・

この戦、勝った!!

 

 

 

 

今一度見直し、全ての科目の正答数を集計した。

 

 

 

 

 

 

結果は、50点満点中、42点だった。

 

過去をどんなに振り返っても40点が合格ラインだった年は無い。

過去20年、高くても36点が最高ライン。

俺が屈辱を受けた27年度に至っては、31点だったのだ。

 

 

 

 

 

 

えええ!お父さん受かったんじゃね?

おめでとう!おめでとう!

 

 

 

 

 

 

 

父親の悶々とした時間を知りつつ堪えてきた子供たちが破顔しながら口々に言ってきた。

それと共にじわりと湧いてきた感慨。

 

 

 

しかし。

 

 

 

まぁまぁとそれを遮りつつ、まだ発表は先だからと自室に入った。

 

 

そう、まだ発表は1か月以上も先。

つまりこの戦はいまだ終わっていないのだ!

 

一番恐れていた相手を、真っ向から両断した手応えを得た。

相手を完全に倒した。

 

しかし、相手の息の根が完全に止まったのを確認するまでは、勝負の最中なのだ。

つまり「俺が宅建試験に合格したことが事実」とならないまで俺は勝利を確信しないし、それに関して笑いもしない。

自己採点の段階での勝利宣言なぞ自己満足にも程があった。

今回に限らず、俺はそうやって勝負をしてきた。

 

 

笑うのは、リングを降りてからだ。

 

 

平成29年 11月 29日

 

 

その日はいつもと変わらずに訪れた。

俺は通常業務が忙しい事もあったし、何ら楽しみな事も無くいつもの通りに朝目覚め、いつもの通りに出社の準備をしていた。

 

そこに水を挿したのは妻の一言だった。

 

 

 

 

ねぇ、そう言えば宅建試験の発表ってそろそろじゃないの?

 

 

 

恐ろしい勘。

というか、楽しみに覚えていてくれたのかも知れない。

 

 

 

ああ、今日だよ。受かってたら何か来るはずだけど。

そういえば、インターネットでも発表するらしいけど。

 

 

 

ええっ!?んじゃー確認しようよ!すぐすぐ!!!!

 

 

 

 

いや、メンドクセェし、結構時間が曖昧なんだよなー・・・

 

 

 

時計を見ると9時を回っていた。

一応発表時間は過ぎている格好だが、前回(平成27年)の時は9時を回っても発表がされていなかった。

 

 

 

 

まぁ発表されてないかもよ?

 

と前置きをしつつ

 

 

 

「宅建試験 合格発表」で検索してみなよ。

 

 

 

と告げた。

告げつつも俺はそれに興味が無く、一瞥もせずに出社の準備をしていた。

一か月以上の時間の流れの中で、いつしか俺の中では合格発表など「おまけ」に過ぎなくなっていた。

 

試合は終わっていないとは言え、42点の自己採点。

俺が望んでいたスコアは40点以上。

もう完全に相手を「斬って」いた。

俺は宅建を自分の思い描いていた、自分が望んでいた形で「斬った」

 

 

と、思っていた。

 

 

もうそれで結構な満足を得られていたし、結果なんて動かし様もないモノと思っていた。

 

 

 

 

 

 

合格していないはずは無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マークシートの番号をひとつずつ飛ばすような事をしていなければ。

 

 

 

 

 

 

試験日から1か月以上の時間を経ることで、いつしか宅建試験の事など完全に過去の事になってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

お!

 

 

 

 

妻が声を上げる。

 

 

 

出てるよ出てるよ!もう発表になってる!!!!

何番何番?

 

 

 

 

 

えー。もう良いだろ。受かってりゃ書類が届くって・・・

 

 

 

合格者には発表より一両日で書留郵便が届く事になっていた。

中には合格証書と宅建士登録をするための手引きがあるという。

 

反対に不合格者には何も知らせは、無い。

 

 

受験票を入れていた引き出しから受験票を取り出した。

どうせ数時間後には書留が届くはずだ。

いま時間を割いて確認する方が無駄だ。

しかし妻は待ちきれない性分だ。

 

いつ確認するのか?今でしょう!な人だ。
 

 

 

 

え?え?何番何番?受験番号何番??


妻が急かす。




えー。受験番号?
1323-5805だよ。

 

 

告げると、また妻はスマートフォンの画面に見入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの手応えだ、受かって居ないはずは無いのだ。

アレで受かって居なければだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

・・・

・・・

・・・あれっ?

 

 

無いよ。

 

 

・・・

あれっ??

 

 

 

 

 

 

妻は小声でつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あれっ??無いよ!番号無い!

どーして!?えっ!?なんで???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1323の後5800!

次は5806番になってるよ!
5805番が飛んでるよ!!!

 

(image)

※実際の映像

 

 

 

またぁ、そんなハズないだろ?

どうせ冗談でしょ?

 

 

 

と妻を振り返ると、彼女の顏は青ざめ引きつり、口元だけがどうして良いか分からないように、形だけが小さく笑っていた。

 

 

この時の表情は何十年経っても忘れる事は無いだろう。

 

そんな彼女の表情を見て、俺も血の気が引く。

ここまでの迫真の演技をしながらジョークを言える人では無い事は、俺が一番良く知っている。

 

 

 

 

 

 

ああ、人間てどうして良いか分からない時には、こんな曖昧な表情になるんだ。

え、俺もしかして、本当にマークシートの上下を間違えて塗った?

いやそもそも会場間違えたとか・・・

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間に色々な考えが浮かんだがしかし、自分の目で見ないと納得がいかない。

明らかに自分の体温が下がったことを感じながら、俺は妻の手からスマートフォンを奪うと画面を見つめた。

 

 

 

・・・

・・・

・・・

・・・

 

 

 

 

 

無い!確かに!無い!

 

 

 

もっとハッキリと自分の頭から血の気が引いて行くのが分かった。

まじまじと画面を見なおす!

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

・・・

・・・

・・・

・・・

・・・・・・。

 

 

あれっ?

 

 

 

(image)

 

※実際の映像 

 

 

 

私は右手の人差し指でスマートフォンの画面下を押さえ、左にこすった。

すると、スクロールした画面には何の事も無く私の受験番号が記載されていた。

 

 

 

 

 

 

 

・・・てか、番号あんじゃん。

1323-5805。

あのこれって画面の下にほら、スクロールできるバーがあるんすけど(汗)

しかもおまえ俺だけじゃなく1323-5802の人も不合格にしたでしょ。

 

 

 

 

 

・・・

・・・
あれっ!?はは!?合格したのぉ???

良かったじゃ~~~~ん!

 

 

 

 

先ほどの絶望とは裏腹に、今度は喜びと、小学生レベルのとちりを誤魔化す為の気まずさが混じった妻の表情を見て、俺の喜びもまたジワジワとこみ上げてくるのを感じていた。

 

 

 

終わった。

 

 

 

今度こそ、完全に勝った!

2年前に1点差で敗れた「宅建試験」に、今度こそ受かったのだ!!

 

 

 

 

屈辱を味あわせられた思いがあった。

家族の時間を無駄にしてしまった申し訳なさがあった。

 

 

しかしそれらを全て糧として、ようやくと復讐を遂げたのだ!

 

しかし、もっと爆発すると思っていた喜びも、予想と反してついぞ爆発する事はなかった。

 

自らが望んだ形での勝利。

 

 

 

 

 

 

宅建試験を複雑骨折させる!

 

 

 

少なくとも40点以上は取って合格すると決めた勝利。

それが現実のモノになったがしかし、それでも笑みは浮かんで来なかった。

 

 

 

理由を端的に言えば、俺自身それが通過点でしかない事を知っていたからだ。

 

 

不動産屋ならば持っていて当たり前。

持っていないと「なーんだ」と言われるだけ。

 

それが「宅建士」というモノ。

 

宅建資格とは不動産を糧に生きるモノにとっては、ただそれだけのモノ。

 

野伏からサムライへは、確かになれた。

刀は携えたがしかし、それはサムライならば当たり前のもの。

実力とはまた、別の次元の話。

毎日の中で刻一刻と積み上げていく戦果とは、全くベツモノなのだ。

 

 

 

宅建試験の合格者の中に自分の番号を見つけ、妻の勘違いを笑った俺は少しだけ声に出して笑ったあと、また淡々と出社の準備をし、自宅を出て、歩き出した。

昨日と何ひとつも変わらない、毎日の中に向けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。

 

 

 

 

自宅に届いた宅建の合格証書を手に拡げ、誇らしげに写った子供の写真がスマホに届いた。

彼らにとってはソレは、私以上に意味のあるモノになったのかも知れない。

 

 

(image)

 

 

実録!俺と宅建試験 本編 ~完~

 

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