水野直樹水野直樹

医療・福祉施設の設計者より(2014年9月)
「コンパクトシティと地域包括ケアシステムは融合できるか?」

医療・福祉施設の設計者より(2014年9月)「コンパクトシティと地域包括ケアシステムは融合できるか?」

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 国土交通省は、「サ高住の立地適正化」に乗り出した。適正化させたいということは、これまでの約3年間で建設されたサ高住はその立地が不適切だったということだろうか。補助制度「スマートウェルネス住宅等推進事業」の見直しなどで立地の政策誘導を行うようだ。背景には、政策課題である「コンパクトシティ」の実現及び「地域包括ケアシステム」との連携を促進させる模様だ。また、高齢者用の賃貸住宅や老人ホーム等の供給目標を定める「高齢者居住安定確保計画」をこれまでの都道府県に加えて、市町村も策定できるように、計画策定に向けたガイドラインの作成も見込む。これらは2015年度から実施されることになり、実際は「総量規制」になる可能性もある。「サ高住のまちなかへの誘導」により、国交省の「コンパクトシティ」と厚労省の「地域包括ケアシステム」、それぞれ両省庁の思惑はうまくいくのだろうか。■2060年の人口は 8,674 万人、65 歳以上人口割合は 39.9% 国立社会保障・人口問題研究所(2014年1月推計)によれば、2060年までに、日本の人口は 4,132 万人(32.3%)の減少が見込まれ8,674 万人程度になる。さらに年少人口(0-14 歳人口)は893 万人(53%)減少し791 万人に、生産年齢人口(15-64 歳人口)は3,755 万人(45.9%)減少し4,418 万人になることが見込まれる。これに対し老年人口(65 歳以上人口)は516 万人( 17.5%)増加し3,464 万人になる。人口高齢化が進行し、2060年の 65 歳以上人口割合は 16.9 ポイント増加し39.9%に、年少人口割合は4.0 ポイントの減少し 9.1%に、生産年齢人口割合は12.9 ポイントの減少し50.9%になることが見込まれる。合計特殊出生率は 1.35(長期的に収束)、平均寿命は2010年男性 79.64年、女性 86.39 年から伸長し、2060年に男性 84.19 年、女性 90.93 年に到達する。長期推計では、2100年の総人口はピーク時の約3分の1まで激減するとも推計されている(中位推計の場合)。景気と人口動向については、過去のデーターを見れば、景気が良くなると都市へ集中し、不景気になると地方へ分散する傾向にある。また東京などの大都市へ若年層が集中すると、合計特殊出生率が下がり人口減少に拍車がかかる傾向にある(人口のブラックホール化)。つまり景気が良くなると人口が減るという妙な現象があることになる。人口問題は神のいたずらなのかもしれない。■コンパクトシティと地域包括ケアシステム前回の記事でも取り上げたが、1998年のいわゆる「まちづくり3法」(改正都市計画法、大規模小売店舗立地法、中心市街地活性化法)によって、郊外へのスプロールから中心市街地への逆スプロールを政策誘導してきた(図-4)。コンパクトシティの推進によって郊外から中心市街地への移転を促すとき、残された住居をどうするのかという問題も生じる。郊外の空き家は売却及び賃貸に不利であると考えられる。廃墟と化す住宅や街が続出することにもなる。急激な変化は郊外の住宅地・団地等の環境を悪化させかねない。しかし既存のインフラ等の維持管理に必要とされる財源は縮小するので無理がある。中心市街地への誘導は必要だが急激な政策誘導は危険性を伴う。が、痛みを伴う変化は必要になっているといえる。 一方、地域包括ケアシステムにおいても、「医療から介護、施設から在宅・地域」なので、介護が必要になった高齢者も、住み慣れた自宅や地域で暮らし続けられるように、「医療・介護・介護予防・生活支援・住まい」の五つのサービスを、一体的に受けられる支援体制との事だ。しかし、医療・介護の面的な展開を特色とするシステムは、それぞれの地域特性に大きく左右される。つまり、特に地方における居住分散地域においては医療・介護提供側の移動コスト等に大きな負担がかかり、その提供に無理があると当初から指摘されてきた。これについては「集住による地域居住やIT活用」によって誘導することが考案されている。地域包括ケアシステムは主に市街地等の人口集積地域について適応可能なシステムの様だ。よって、前述のごとくコンパクトシティという人口集住誘導により地域包括ケアシステムの実現を推進するという構想に帰結させたのだろう。しかしここで問題になるのは「在宅への医療提供」だ。今まで多くの医療法人は施設の中でしか医療提供して来なかった。さらに大規模な病院ほど郊外に立地している。また特養においてはほとんどが地域と隔離した場所に立地している(特養の地域への展開が誘導されようとしているが、多くの特養の立地状況を理解しているのか疑問だ)。今後の人口動向を鑑みた場合、確かにコンパクトシティと地域包括ケアシステムを重ね合わせることは容易に出せる答えだろう。無策または後退よりも1センチずつ進む変革は評価されるかもしれないし、極端な制度変更は危険だろう。が、1メートル単位で進む世の中の変化には到底ついていけないだろう。
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