このブログを、宅地建物取引士いわゆる「宅建士」を志し、
その資格試験に挑戦する全ての挑戦者に捧げたいと思う。
 
  
************************

 

 

 

ゴングが鳴る瞬間まで相手を見据え「その瞬間」に爆発させるための熱を

鬱蒼と体内に留め、心と身体を整える。

ゴングと共に猛然と相手に襲い掛かり、そのまま完全に相手が動かなくなるまで殴り続ける。

その為の大切な「アイドリング」なのだ。

 

 

 

平成29年 10月 15日

 

 

試験当日の午前11時。

ピタリと目を覚ました。

 

試験は14時より。

丁度よい時間だった。

 

起きると直ぐに食事を摂った。

これも事前にシミュレーションした結果だったが、

食事が直前過ぎると眠気が襲い、反対に空腹で挑むと集中力が極端に落ちた。

 

試験に入る3時間ほど前に適度に腹を満たすのが、俺には良かった。

コーヒーを飲み、歯を磨き、顔を洗う。

 

2時間ほどの睡眠だったが眠気は無く、覇気が凛と張っていた。

今なら上空高く飛ぶ鳥の羽音が聞こえる。

 

そんな気さえした。

 

思えば前回は何処かで読んだ

「試験前日はジタバタせず、早めに寝て体調を整えましょう!」

という根拠のない言葉に従い、早寝して挑んだ。

 

平和ボケだったと思う。

 

振り返れば何だろうが、勝負の前日はほぼ睡眠など取らず、悶々と戦意を養ってきたのに。

 

この日はちょうど、長男の空手も昇級試験だった。

 

おお、頑張って来いよ。

 

と声を掛け、靴を履き、長男よりも先に我が家を後にした。

最寄り駅までは徒歩10分ていど。

 

電車に乗り、やはり10分程度で会場の駅に着く。

ここを第一希望にした訳では無かったが、一番自宅に近い試験会場に割り振られたようだ。

 

地下鉄の階段を上り、地上に出た。

ふーっと、息を吐く。

あたりを見回す。

 

雨が降り始め、地下鉄の出口を出たところでは窮屈そうに傘を重ね合う人々が青信号を待っている。

選挙が近いせいか、何事かマイクでがなる声が交差点に響いていた。

 

 

日常。

 

 

の中の、非日常。

すでに戦地に向かう人々の群れが黙々と続いていた。

俺も黙ってそれに従い、長い坂を上る。

会場が高校だった為か、たまに駅に向かい坂を下りてくる高校生とすれ違った。

 

 

 

宅建試験は受かれば一生だぞ。

アタマの柔らかい、今のうちに受けとけよ。

お前らのやっている事に比べたら楽勝だからさ。

 

 

 

何時かの俺に心でつぶやく。

 

ほどなく辿り着いた会場入り口は動きが悪く、人がごった返していた。

傘をたたみつつ、雨が原因だろう。と思った。

 

のろのろと入り口を抜けると傘を入れるビニールを受け取りつつ、

俺は人ごみの中から試験会場である教室への最短ルートを見つけ、素早く人ごみをかき分けて教室に入った。

受験票をたよりに割り振られた席に座り、ペットボトルから一口水を飲む。

試験開始まではあと30分ある。

 

 

よし。

 

 

リュックから参考書を取り出すと、苦手な箇所とヤマを張った箇所をもう一度見直した。

 

今回は農地法と宅建業法に大きな改正があった。

中でも農地法の改正は、俺の中では分かり辛かった。

それらはもちろん過去問には出て来ていない分野だ。

 

読み直す。咀嚼する。飲み込む。少しノドに残る。もう一度噛み直す。飲み込む。

 

数度で脳に定着した。

 

ヤマを掛けていた。

というより、重要なので絶対に出る箇所。というのが正しいかも知れない。

 

宅建業者と宅建士の各種届出の違い

営業保証金と弁済業務保証金分担金周辺の数字

国土法の数字、特に事後届けの周辺。

 

そして35条書面と37条書面の記載事項の違い。

 

これらをギリギリまで確認し、とんとんとリズムを整え、たとえ敵がそこに罠を仕掛けようとも空気で違和感を察知できるようにした。

 

前回は「前日当日にバタバタしてもしゃーない!」と思い込み、強がり、試験前の30分を疎かにしていた。

事ここに至り参考書をバタバタと見なおしている人を

 

今さら遅ぇよ!

 

と心の中で突っ込んでさえいた。

 

それは、完全なる間違いだった。

それらは実は、ジタバタと今さらながらに知識を植え付けるための行為では無い。

 

ゴングが鳴る瞬間まで相手を見据え「その瞬間」に爆発させるための熱を鬱蒼と体内に留め、心と身体を整える。

ゴングと共に猛然と相手に襲い掛かり、そのまま完全に相手が動かなくなるまで殴り続ける。

 

その為の大切な「アイドリング」なのだ。

 

時計を見る。

あと10分。

 

見る。

 

あと5分。

 

そして・・・

 

俺の2年越しのリベンジマッチは静かに始まった。

 

パラパラと素早く問題をめくり、出題の「区切り」を判別。

俺は事前の攻城作戦通りに粛々と戦を進めた。

 

都市計画法

税法

 

この時点では可も不可も無い。

手ごたえも、無い。

分かった所はすぐに分かったし、

分からない所は「リズム」を頼りにマークをした。

 

次に、宅建業法に着手した。

 

都市計画法の後に国土法や農地法を攻めなかったのは、俺がそれらを得意だったからだ。

得意な問題は、万が一にも間違えられない。

 

落ち着いて問題を咀嚼し、一戦必勝で落とす!

 

なので税法まで攻め、続いて宅建業法を攻めた。

 

ここは思い出も深い、最も苦戦をし続けた分野。

 

俺の恨みの根幹を成す箇所と言っても言い過ぎでは無い分野。

本来ならば苦手意識も働いたかも知れなかったがしかし、俺の作戦は完全に功を奏した。

 

過去の敗戦から学びを得ていた俺は、過去問鍛錬一問一答6500問のうち4000問くらいを実は、宅建業法に費やしたのだ。

 

鍛錬を積むことにより、人は驚くほど強くなる。

 

まるで鋭利な刃物で紙をなでるようにスッと、宅建業法が切れた。

まるで手ごたえ無く、業法が両断された。

 

もっとも苦手だった業法を難なく切れた事で、この時の俺のリズムは完全に出来上がっていた。

 

余勢を借り、問題を遡り、一気に民法や国土法などを落とす。

特に、確実に1点を取れる民法の判例問題は10分以上の時間を掛けてゆっくりと読み解いた。

 

ここでようやくと顔を上げ時計を見あげる。

ひとまず50問を駆け抜け、残り20分。

俺は馬首を返し、今来た道をもう一度折り返した。

 

難問と感じた設問は深追いせず、回答保留のままに全く手つかず残してあった。

「残党狩り」

残っていた3問を20分かけて解き、俺のリベンジマッチは始まりと同様静かに終わりを迎えた。

 

 

初戦に感じた高揚感や焦燥感などは、今回微塵も感じ無かった。

何度もシミュレーションを繰り返したし、その通りのルートで攻略をしたのが大きかったのだと思う。

 

長い時間を掛けてきた試験が終わったという開放感は無かったが、内包していた熱を徹底的に放出したことで、それまで何処かに抱え続けていた「重さ」が完全に無くなり、胸の真ん中が妙にふわりと軽くなったおかしな感覚になっていた。

 

 

終わった。

 

 

 

 

人間はまた、弱いものだ。

鍛錬を積み強くなった気でいても、不退転のプレッシャーが身体を重くしていたのかも知れない。

熱を放つと同時に、プレッシャーをも開放させたのだろうか。

身体がすっかりと軽くなった感じがしていた。

 

 

帰路。

 

 

会場であった高校の校門前は霧のようなタバコの煙に包まれていた。

この業界の喫煙率は突出して高い。

彼らにとって辛かったかどうかは定かでは無いが、多くの参戦者が戦いを終え、ヤイノヤイノと盛り上がりつつタバコをふかしていた。

 

煙を払い煩わしい思いでそこをスリ抜けると、俺はすかさずスマホを取り出した。

 

その画面には、お世話になった過去問アプリのアイコンが浮かんでいた。

 

 

もう不要だな。

 

 

何の感慨も無く俺はそれをアンインストールした。

 

 

終わった。俺にはもうカンケー無いんだよ。

 

 

しかし何処かで、一つの疑念が浮かんでいたのもまた事実だった。

 

 

・・・オカシイ。

 

 

手ごたえが無さ過ぎた。

2年前は惜敗した相手だ。

死力を尽くして戦い敗れた感覚が身体に残った相手だ。

その相手と白刃を交わした感覚が、今回は全く持って得られなかったのだ。

 

 

 

アイツはあんなにも、脆かったか?

何ら手ごたえも感じられず、息の根を止められるような存在だったのか?

俺の知らない所で、何がしかの罠が仕掛けられていたのではないか?
 

 

違和感を感じつつ俺は、がらん堂のように何処かが抜けて軽くなった身体と一抹の疑念を抱えつつ、トボトボと降りていった。

数時間前には必殺の気合を胸に一歩を踏みしめた、地下鉄の入り口を。

 

 

 

 

 

 

お馴染みの文字数制限で明日に続く(笑)

async





async
アドバイザーをされたい方へ
ログインフォーム
メールアドレス
パスワード
パスワードを忘れてしまいましたか?
土地活用ドットコム